さて、今月の妙乃見山はこちらです。
「水に映る月と私達の心」
桑木 信弘
お寺の周囲の棚田に水が入りました。
山あいに連なる田んぼが静かに水を湛え、空や山を映しています。
周囲は、風に揺れる木々の枝、互いに擦れ合う葉の音。その自然の光景にどこか心が洗われる気持ちになり、心は静まってきます。
豊かな水を湛えた棚田は降り注ぐ恵みの雨や、そして水路を整え田を守り耕す人々の努力によってこの姿を保っています。これは、先人達が自然と共に歩んできた証でもあり、その土地に生きる虫や鳥たちなど、多くの縁によって育まれ、ようやく迎える事の出来る初夏の風景なのです。
夜、空に静かに浮かぶ満月が棚田に映っています。天と地に輝く二つの満月は神秘的です。
月を仏さまと置きかえるとよくわかる教えがあります。人の心の水が澄んでいれば、月がその澄んだ鏡のような水面に映るというのです。
私達の心をかえりみますと、様々なストレス、不安などにかき乱されてしまいがちです。多忙な日々に追われ、時には疲れ切り心渇く事さえあります。
これでは私達の心を、豊かな実りある土壌に育む事は出来ません。
私達は、時としてその歩みを留め、ひと息ついて安らぐ必要があります。 日蓮聖人は「水澄めば月映る、風吹けば木揺るぐごとく、みなの御心は水のごとし」と仰っています。
水に映る月は、私達一人一人の心のあり方を映し出します。澄んだ水には澄んだ月が、濁った水には歪んだ影が。
「風吹けば木揺るぐごとく」南無妙法蓮華経と唱える呼吸の風を吹かせ、心の塵を払い、サビを削る時、乱れた水面が次第に静まり澄んだ水面に月が映るように、私達の心にも仏の姿である月が映るのです。
日々、お題目を唱えることで、棚田に映る清々しい空のように、心澄んでいたいものです。
季節の変わり目、どうぞご自愛のうえ、穏やかな夏をお迎えください。